1 研究課題

   ・特別活動(特に学級活動)の充実による道徳教育の推進

   ・地域・家庭・学校・園が一体となった道徳教育の推進

 

2 研究主題とその設定理由

  豊かな関わり合いの中で、「気づき、考え、実行する」生徒の育成
  〜地域の力と連携した道徳教育を通して〜 

  平成25年度、研究主題を設定する時に次のように考えた。本校では、地域行事に一部の生徒が参加しているが、全体が地域行事に関わる機会が少ない。そのことを踏まえて家庭や地域社会との交流を密にし、協力体制を整えるとともに、具体的な連携の在り方について多様な方法を工夫していきたい。

   さらに本校の生徒は、純朴でまじめな気質をもった生徒が多いが、比較的固定化された人間関係に浸っているため、競争意識や自己啓発力が弱く、自らを高めていこうとする意識が低い。そこで学校内の友達関係はもとより、年齢を隔てた人間関係の中で力を合わせてやり遂げ、達成感や充実感を味わえる場、また学校内外のさまざまな体験活動など、自分の将来展望を深められる場を作ることで、「気づき、考え、実行する」生徒の育成が図れるのではないかと考え、本主題を設定した。

  

3 研究の概要及び特色

@研究の体制

     昨年度の研究組織を見直し、校長・教頭・教務主任・研究主任・道徳教育推進教師・部会長3名の推進委員に加え、研究副主任を置くことで、研究推進委員会がさらに円滑に機能するようにした。組織図

A取組の状況

平成25年度の研究の成果として、各教科、各行事等の体験的な活動の中で培われる道徳的価値の自覚を深め、道徳の時間において思いやりや自主性について深く考え、特に学校行事に生かせるように工夫することができた、ということが挙げられた。また課題としては、アンケートを全校生徒に実施し、生徒の意識の変容を検証すること、体験活動と道徳の時間の関連を深める時期、資料等の検討を行うことが挙げられた。

  これらを受けて平成26年度の取組として、道徳項目2−2の「思いやり」と1−3の「自主・自律」についてのアンケートを実施、結果の分析、課題把握を行う。また、アンケート結果の課題を元に、各部会で日常生活において思いやりや自主性についてさらに考え、行動できるように工夫する。そして年度の後半に再度アンケートを実施、意識の変容を検証することとした。

   今年度始めに実施したアンケート(平成26年4月 全学年 309人)では、「思いやり」の「人の気持ちがわかる人間になりたい。」、「自主・自律」の「自分で考え、物事を正しく判断し、自分の決めた行動には責任をもちたい。」というそれぞれの項目では、心情面では9割以上の生徒が肯定的な意見をもっているが、「思いやりの気持ちをもって行動している。」という行動面では約2割の生徒ができていない、ということが分かった。そのため、その後の道徳の時間やさまざまな活動の中で「思いやり」や「自主・自律」について気付かせ、肯定的な意見や行動が多くなるような取組をする必要がある、という課題が見つかった。

   これらのアンケート分析と課題把握の結果、各部会の取組を再検討し活動を行うこととした。

 

ア 授業づくり部会

() 道徳教育の全体計画、年間指導計画の見直し

本校の道徳教育の重点目標とした「正しい判  

断の上に立って自主的に考え、責任をもって 

考える生徒の育成(1−3)」、「『思いや  

り』、『支え合う』、『自他を大切にする』

ことができる生徒の育成(2−2)」につい 

て、より深めることができるように、道徳教 

育の全体計画、年間指導計画、別葉の見直しを 

行った。まず、年度始めの道徳では、道徳のスタ

ートを意識させるために、「道徳オリエンテーショ

ン」を全学年で実施することとし、基本的には、行 



道徳の授業風景

事や体験・実践活動の前後には、重点とする価値項目(1−3、2−2)

が深まる道徳資料が必ず入るよう、資料の検討および並び替えや差し替

えを行った。
また、前年度作成した全体計画、年間指導計画、別葉が「作っただけに終わらない」ために、更に各学年の発達段階や道徳性に応じたどんな「ねらい」が必要かに注意し、どんな資料や内容項目が系統的に年間を通し学年間で行なわれているのかを教員が共有することができるよう見直しを進めた。

() 年間指導計画及び別葉の見直し

年間指導計画や別葉においては、行事や体験、各教科指導が道徳のそれぞれどういった価値項目に生かされ関わるのかをはっきりさせ、他領域と道徳の時間との関連やつながりが更に意識されるよう、年度始めに各学年の教科担当及び各分掌で点検・チェックを行った。

特に、教科・総合的な学習の時間・特別活動および行事と道徳に関わる体験・実践活動における指導の内容や時期、地域との連携等がより明確に活用しやすいものになるよう見直しを図った。

また、各領域の諸活動の中にある道徳のねらいを指導案にどう盛り込むべきかを検討しながら進めるとともに、今年度新しく配布された『私たちの道徳』の活用を視野に入れながら、関連ページを盛り込めるよう別葉の見直しに着手していった。

それは、教育課程全体にある道徳教育の部分を知り、何がどう絡み合いながら、何が価値項目、ねらいとして貫かれているのかが見えるようにしていくことが、行事や体験活動をはじめとする道徳教育を資するそれぞれの領域や教科の充実になり、道徳の時間をより魅力的で効果的なものにする道筋手だてになるとの前年度の課題を踏襲したものである。

 

() 道徳指導案の検討や実際の指導過程、道徳の時間における工夫

行事や体験活動をより生かし、魅力ある効果的な道徳の時間にするにはどうすべきか。

前年度の課題であった「指導案にどのように価値項目(ねらい)を取り込み・盛り込み・反映させていくべきなのか」について、引き続き従来の指導案や研究会での資料などを参考に研究、検討した。特に、行事や体験活動を通して得られる道徳性を補充・深化・統合する要となる道徳の時間にするために、指導案左側の主題設定の理由における他領域との関連(研究主題との関わり)をどう表記して行事や体験活動との関連を分かりやすく価値項目(ねらい)を提示できるのかに注目した。

また本時案・授業展開では、その道徳の時間の導入・展開・終末のどこにどういう形や工夫で「行事や体験」を盛り込むことが効果的な指導になるのか。それぞれの学年や生徒の実態と道徳性の傾向を反映した魅力的で効果的な道徳の授業の進め方や工夫を、部会以外に、2回の公開授業に向けた指導案づくりやプレ授業(事前の研究授業)による検討会や反省会において進めた。

 

 

() 成果と課題

a 道徳教育の全体計画・年間指導計画・別葉の見直し

「作っただけで終わらせない」ために、道徳の全体計画や年間指導計画、別葉を見直したが、そこに貫かれるはずの各学年の発達段階や道徳性に応じた「重点項目」や「ねらい」を毎年検証し設定する方策が引き続き必要であると考える。

どんな資料や内容項目の道徳の時間が系統的に年間を通して、また学年間で行なわれているのかを共有することで全体像が具体的に描けるようにしていくためには、更にアイディアや工夫が必要だと思われた。 

また年間指導計画や別葉において、行事や体験、各教科指導のそれぞれどういった具体的な指導内容が道徳の時間の価値項目に関わるのかを明記できる工夫や、他領域と道徳の時間との関連やつながりが更に意識され共通理解されていくべきではないかとも考える。

見取り図としての計画性と発展性をもたせた、「学年内で、各学年間で、そして全体で」更に《つながる》計画づくりになるように、いつでもどこででもわかる《つながる》計画を立てる。また、そこで必要な道徳の資料に、いつでもどこででも出会える資料の収集と整備も引き続き行っていく必要があると考える。 

b より効果的で魅力ある道徳の時間づくり 

行事や体験活動後の道徳の時間に限らず、日々の道徳の時間を心に響く、生徒も教師も《響き合う》授業にすることがより効果的に行事や体験活動を生かし道徳的価値を補充・深化・統合することになると考える。

そこで、どのように道徳の時間を進めるのか、指導過程の「導入・展開・終末」の基本事項や留意点の再確認をしながら、週1時間、年間35時間の日々の道徳の時間において、柔軟な発想で心を響かす指導方法や指導形態、多様な学習活動はどうあるべきかを分析、検討し、次の授業に生かすための道筋を共通理解していく場や研修をもち、継続的にまた定期的に行った。

また、道徳の時間を生徒同士がお互いに響き合える時間に、行事や体験

活動をより生かすための時間にするために、改善の余地や工夫の余地を素早く明確にするための授業検証シートなどによる方法も考えた。

c 『私たちの道徳』の活用について 
今年度新しく配布された『私たちの道徳』の活用を視野に入れ、関連ページを項目ごとに大きく年間計画や別葉に盛り込んだが、『私たちの道徳』に収録されている読物資料やアンケート結果、格言などの細かい資料の活用についてはまだまだ改善の余地がある。どの資料をどこにどう使うのが効果的で有効的なのか、また年間計画の資料との差し替えなどについては具体的に取り組めていないというのが現状である。そこで、今後は、資料の読み込みや資料分析を図りながら、効果的な活用ができるよう計画に盛り込んでいく必要がある。さらに活用方法として、今年度は一度家に持ち帰らせ課題とした程度であったが、定期的に持ち帰り、道徳の事前や事後に、また行事や体験活動の前後に持ち帰らせたり、学期始めや終わりに活用したりということも視野に入れながら活用の仕方を検討改善していく必要があると考える。


 

道徳の授業風景




道徳の授業風景



グループで話し合い

 

d その他 「授業づくり」部会で行った実践について

「授業づくり」部会では、今年度の道徳に  

おけるアンケート結果の分析から、生徒は  

「自主・自律(1−3)」も「思いやり(2

−2)」も心情面では高く、行動の面では 

やや低い点を、「できて当たり前」と考え

てそれぞれを「正しい判断」とも「思いや  

り」のある行動とも捉えてはいないのでは

ないかと考えた。

 

そこで部会として何か取り組めることはないかと検討し、帰りの会など

で日常的な場面を振り返らせ現在行っているスピーチに盛り込ませて

いけば、生活(生徒指導)や道徳の重点項目としての取組としてもタイムリーでもあり、より意識・心情と行動の一致や気づかなかった行動や態度にも気づき「自主・自律」や「思いやり」についてより広がり深まり、生徒の様子や実態、考え方がよりわかるのではないかと考え、スピーチ原稿をその二点に絞って書かせ発表・スピーチさせることとした。まず第2学年で、「思いやり」をテーマに身近に感じた「思いやり」や、見たり聞いたりした体験や経験を書かせ発表・スピーチしていった。

第2学年だけの取組とはなったが、同じ時期に全員がテーマを同じくして短い時間ではあっても発表することで、それはそれで充分に道徳の時間をサポートする取組となったように思われる。生徒の何気ない視線に映ったり心に響いたりした瞬間として表れた「思いやり」から、生徒個々の考えや態度、行事や体験への様子がわかり、クラス全員でそれを共有する場面の設定は道徳の時間へ効果的なホップ・ステップ・ジャンプとなった。

 

e その他 道徳の時間、教科、行事、体験活動内における評価について

道徳の時間における評価また、教科における道徳目標への評価や行事・体験活動における道徳のねらいについての評価をどう行い扱うのか。そして、その評価をどのように明記化し個人や、次の授業や指導につなげていくのかは、道徳の教科化に伴う今後の大きな課題といえる。

 

1学期始業式より

 

イ 体験活動部会

昨年度は、本校の道徳重点項目「思いやり(2−2)」

に関して、体育会や各学年行事など、さまざまな活動でテーマとして掲げ、考える時間を確保したり、呼びかけをしたりするなど一貫して同じテーマで取り組んだ。その結果、生徒たちだけではなく教員にも共通意識のもとに活動することができた。しかし道徳項目「自主・自律(1−3)」については、取組が弱く、生徒たちへの意識付けが十分ではなかったという反省があった。そこで、今年度は、昨年度からの「思いやり」に付け加え「正しい判断」を4月当初から生徒指導のテーマにするなど全校をあげてテーマとして掲げ、様々な活動を行ってきた。

 

また、アクションシートも昨年から引き続き取り組

んだ。繰り返し取り組むことで自分自身の目標 

を立てることが当たり前になり、意識付けにな  

っている。意識していたことの確認、振り返り 

に活用できた。「具体的な活動が意識できるよ

うになってきた。」などの反省がある一方で、  

「次の活動へのつながりがあまり意識できて 

いない。」「次の活動に生かせていない。」

などの課題もあった。教員の働きかけ方の工

夫が必要などの意見があった。

 

「良いとこ探し」の掲示

活動の後に行っている「良いとこ探し」を、今回はクラスごとに一つの花にする取組を行った。クラスごとにできた花を廊下に掲示し、学校全体の温かい雰囲気作りになった。また昨年度から引き続き、折に触れてメッセージを掲示することで、生徒たちに広く呼びかけを行った。

ウ 地域連携部会

昨年度の地域連携部会のアンケート結果からは、それまで郷土のことを漠然としか考えることができなかった生徒が、郷土について真剣に考えようとしたり、地域の方々に支えられていることに気付き感謝の気持ちを表したりすることができるようになったことが分った。しかし、地域の方との関わりから思いやりに触れることで、生徒自身の思いやりの心も深まり、生徒の行動につながるのではないかと考えていたが、実際には温かい人間関係の中で暮らしていることへの感謝や他者への思いやりには、なかなかつながっていない実態もみえた。

そこで、今年度は地域の方との活動と道徳の時間との関連付けを見直し、道徳の内容項目「思いやり(2−2)」を扱う道徳の時間を技術・家庭科の「栽培実習」の前後に設定することで、思いやりの気持ちをもって主体的に行動できる力を伸ばすことができると考えた。また、技術・家庭科の「まこもたけ栽培」実習では、さまざまな体験での気付きの中で「思いやり」に注目させる活動に重点をおくこととした。

 

その結果、地域の「まこもたけ同好会」の方々へのお礼のメッセージには、さまざまな場面をあげての感謝と共に「僕たちがいない間もまこもたけの世話をしてくださり、 ありがとうございました。」「収穫の時は朝早くから水抜きまでしてくださり、ありがとうございました。」「僕たちのために事前に準備していてくださり、ありがとうございました。」というように、一緒に活動していないときにも栽培を支えてくださる同好会の方々の「思い」を感じとり、感謝の念を言葉にすることがで

きた。

 

生徒が書いたお礼の手紙

 

公開授業「ディジタル作品を設計・制作しよ

(栽培レポート)」では、栽培実習での活動

場面で「思いやり」に主眼をあてて写真を選

んだり、良いとこ探しのコメントを入れたり

するように促し、グループ活動を進めた。さ   

らに、地域の「まこもたけ同好会」の方の「思 

い」についてもコメントを入れるようにする 

ことで他者の「思いやり」に気付くことがで

きた。また、話し合い活動を通して、自分は

見逃していたことを級友の言葉から気付かさ

れたり、グループの中でその思いを共有したり 

することができた。


技術・家庭科の授業風景 

このように、今年度の取組によって、「協力や地域の方とのふれあい等

も思いやりだということが分かった。」など気付きの広がりがみられ、11月に実施したアンケート結果(平成26年11月 全学年 312人)からも、「思いやりの気持ちをもって行動したい」と思う生徒の割合が4月にくらべて増加していた。今後、思いやりの気持ちをもって行動していると自覚し、実際の行動につながる生徒がより増えるよう、地域の方との活動と道徳の時間の関連付けを大切にし、継続していくことが求められる。

 

その他の取組として、視覚 

的にも「思いやり」の場面が  

生徒達に伝わるように、とい

う観点から、校内にも掲示物

を多く取り入れることにし

た。道徳の時間に出た意見、

学校行事や各学年の行事、


「思いやり」場面の掲示物

 

常生活においてみられた多くの思いやりに気づくことができ、生徒達の姿や行動にも少しずつ変化が見られるようになった。例えば、人がしているさりげない「思いやり」の行動を自分もしてみたり、さまざまな意見を目にすることで考え方にも深みが増したり、といった変化である。それは道徳の時間に生徒達が書いた意見の中などで見ることができた。

4 研究の評価

     アンケートの結果をみると、心情面で肯定的な意見の割合が9割と元々高く、4月に比べるとわずかではあったが増えた。意識の変容として、「思いやり」や「自主・自律」の項目の「人の気持ちがわかる人間になりたい。」や「自分で考え、物事を正しく判断し、自分の決めた行動に責任をもちたい。」という設問において否定的な意見から肯定的な意見への意識の変容がみられた。これは、心情面での道徳的価値の自覚が高まったと考えられる。また行動面では、日常生活の具体的な場面でどのような行動をとったか意識できるようになった。さらに「人に何かをしてもらったときありがとう。」という感謝の気持ちも思いやりの一つと考える生徒もでてきた。これは、日常生活や学校生活の中で「思いやり」を意識させる掲示の工夫やアクションシートの取組等の成果だと考えられる。

以上のことより、さまざまな体験活動の中で多くの人たちとのふれあいを深めたことで、今以上に「人の役に立つ人間になりたい。」「人に親切にしたい。」と感じている生徒が増えたことが成果の一つとして挙げられる。また「道徳の授業を通して自分の考えが広がったり深まったりしている。」と感じている生徒が増えたことも成果であろう。(グラフ1・2)

 質問「道徳の時間を通して自分の考えが広がったり、深まったりしている」
   
 グラフ1 アンケート(平成26年4月実施)  グラフ2 アンケート(平成2611月実施)

今後の課題としては、思いやりの大切さに気付かせるだけでなく、人と人との関わりの中で互いに支え合う経験を積み重ねながら、さらに思いやりの心と態度が育まれていくよう、工夫していきたい。